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  • 執筆者の写真慶太 蜷川

ネマリンミオパチー患者の自然経過について

更新日:6月27日






A Cross-Sectional Study of Nemaline Myopathy

Kimberly Amburgey, MS, Meryl Acker, MSc, Samia Saeed, BSc, Reshma Amin, MD, Alan H. Beggs, PhD, Carsten G. Bonnemann, MD, Michael Brudno, PhD, Andrei Constantinescu, MD, Jahannaz Dastgir, MD, ¨ Mamadou Diallo, MS, MS, Casie A. Genetti, MS, Michael Glueck, PhD, Stacy Hewson, MSc, Courtney Hum, MSc, Minal S. Jain, PT, DSc, Michael W. Lawlor, MD, PhD, Oscar H. Meyer, MD, Leslie Nelson, PT, PhD, Nicole Sultanum, MSc, Faiza Syed, RRT, Tuyen Tran, RRT, Ching H. Wang, MD, and James J. Dowling, MD, PhD

Neurology | Volume 96, Number 10 | March 9, 2021



ネマリンミオパチーの自然経過について明らかにするべく行われた研究です。日本人ではまだまとまったデータはざっと調べた感じではなさそうでので、海外のデータをご紹介します。


論文の要旨:ネマリンミオパチー(NM)は、臨床的および遺伝的に多様かつ希少な神経筋疾患です。この研究の目的は、NMの自然経過を明らかにするために行われました。

57名のNM患者が対象です(2009年と2016年の2地点でのデータを合わせて解析しており、それぞれ16人, 25人)。そのうち16名は両方の時点で評価されました。参加者は臨床歴および身体検査により評価されました。大まかな結果は以下の通りです。

  • 最も一般的な臨床分類は典型的な先天性NM(54%)であり、42%がより重篤な症状を示しました。

  • 58%の患者が機械的サポートを必要とし、そのうち26%が車椅子、気管切開、および経管栄養を必要としていました。

  • 運動機能測定(MFMスケール)は57名中44名で実施され、多くの患者でスコアが低く、フロア/シーリング効果はほとんど見られませんでした。

  • 呼吸機能検査(PFT)を完了した27名中65%で異常値が観察されました。

  • 新しい結果測定法により評価された全ての患者で球麻痺機能が異常であることが確認されました。

  • 遺伝子型には、ACTA1(18例)、NEB(20例)、TPM2(2例)の変異が含まれ、17名は遺伝子的に未解決でした。

  • ACTA1およびNEBの病原性変異を持つ患者は臨床表現型がほぼ類似していましたが、遺伝子的に未解決の患者はより重篤な病状を示しました。



以下にもう少し詳しく内容を記載していきます。



方法


 このコホートには、男性27名、女性30名を含む、1歳から57歳までの参加者が含まれていました。ネマリンミオパチーの診断は、ACTA1、NEB、またはTPM2の病的変異の遺伝的確認(40名)または、筋生検でネマリン小体の存在が確認された(16名)、または家族歴にネマリン小体がある臨床的特徴の有無(1名)に基づいていました。遺伝的に確定された症例のうち33名は筋生検も受けており、すべての生検にネマリン小体が含まれていました。

 

 参加者は、2009年および2016年にA Foundation Building Strengthが主催したネマリンミオパチー家族会の集まり(ニューヨーク州ホワイトプレインズ)で募集されました。参加者の一部は両方の会議に参加し、縦断的データが収集されました(16名)。残りの参加者は1回のみの参加で、2009年(16名)または2016年(25名)のいずれかに参加しました。2009年にのみ参加した被験者は再連絡されなかったため、現在の生存状況を確認できませんでした。

 

 研究開始時に1名の死亡者が登録されました。41名の参加者の民族は次のように分類されました(32名が白人/コーカソイド、3名がネイティブアメリカン、1名が中東系、4名がヒスパニック、1名がアジア系、1名が黒人/アフリカ系アメリカ人、8名がアシュケナージ系ユダヤ人);41名のうち9名は複数の民族を報告しました。


 データは、書面での資料(2009年)または2つの電子システム(2016年)に直接アップロードされて収集されました。

 家族会の集まりでは、以下の評価が行われました:医療アンケート(家系図、妊娠、出産、発達および医療履歴を含む)、身体検査、運動評価(ガワーズ動作、10m走テスト、階段登りテスト、運動機能測定[MFM] 20または32、筋力測定)、ゴニオメトリー(関節運動の評価)、および肺機能検査(PFTs)。




結果

 2009年または2016年に確認されたネマリンミオパチーを持つ57名が登録され、そのうち16名は両方の時点で評価されました。研究登録時に1名の死亡者が含まれていました。

 ネマリンミオパチーの診断は、50例中49例で筋生検により確定されました。遺伝子検査を受けたすべての個人は、最低でも既知のネマリンミオパチー遺伝子を含む検査を受けていました。



原因遺伝子・臨床病型について



コホートの35%(20名)はNEBの原因遺伝子変異を、32%(18名)はACTA1、4%(2名)はTPM2に変異を持っており、30%(17名)は広範な検査にもかかわらず遺伝的に不明でした。 







コホートの56%(30名)は典型的な先天性パターンに該当し、21%(11名)は重度先天性、23%(12名)は中等度先天性でした。









遺伝子型は臨床病型ごとで均等に分布していました







受けているサポートについて


全体の58%(53名中31名)が少なくとも1種類の支援を必要とし、その中の26%(31名中8名)がすべての領域で支援を必要としていました。




全体の60%が人工呼吸補助を必要としており、侵襲的(32%)と非侵襲的(28%)がほぼ均等に分かれていました。侵襲的呼吸補助の開始年齢の中央値は0.9歳、非侵襲的呼吸補助の開始年齢の中央値は4歳でした。全体の51%が経管栄養を使用していました。2歳以上の30%が車椅子を必要としていました。



筋力低下について

 MRCグレーディングを用いた直接的な筋力テストでは、筋力は通常、軽度から中等度の範囲であり、評価されたすべての筋群の中央値は少なくとも重力に抗する強さがありました。

 

 Medical Research Council(MRC)グレーディングは筋力を評価するための標準的なスケールです。筋力を0から5までの6段階で評価します。

  1. グレード0 - 筋肉の収縮が全く見られない。

  2. グレード1 - 筋肉のわずかな収縮はあるが、関節の動きは見られない。

  3. グレード2 - 重力を取り除いた状態で関節が動く(重力に逆らわない)。

  4. グレード3 - 重力に逆らって関節が動くが、抵抗を加えると動かなくなる。

  5. グレード4 - ある程度の抵抗に逆らって関節が動くが、完全な強さではない。

  6. グレード5 - 正常な筋力(最大の抵抗に対して完全に動く)。



 身体検査としてガワーズ動作など筋力関連の測定を実施しました。

 ガワーズ動作とは、下肢および体幹の筋力が低下している場合に見られる典型的な動きであり、床から立ち上がる際に、手や腕を使って体を支える様子を指します。ガワーズ動作は、筋ジストロフィーやネマリンミオパチーの筋力の評価や病状の進行を判断するために使用されます。

 具体的には、ガワーズ動作では次のような動作が観察されます:

  1. 患者は床に座った状態から両手と膝を使って四つん這いになります。

  2. 次に、両手を膝に押し付けながら、体を徐々に持ち上げていきます。

  3. 立ち上がる過程で、手を太ももに移動させ、体を支えながら完全に立ち上がります。



筋肉以外の症状について

臓器の部位

調査時に症状がある人

症状を調べられた人数

全体に対する割合 (%)

 

 

 

 近視

9

36

25

 遠視

6

38

16

 斜視

5

39

13

 

 

 

 難聴

6

39

15

心臓

 

 

 

 不整脈

4

39

10

 心雑音

3

40

7.5

 心筋症

5

40

13

 卵円孔開存症

5

40

13

 心室中隔欠損

1

39

2.6

消化管

 

 

 

 嚥下障害

22

40

55

 胃排出遅延

4

36

11

 アカラシア

2

37

5.4

 慢性便秘

20

48

42

 胆石

1

38

2.6

 腎結石

5

40

13

肝臓

 

 

 

 黄疸

5

38

13

 肝障害

1

37

2.7

泌尿器系

 

 

 

 慢性尿路感染

3

38

7.9

 停留精巣

5

31

2.7

甲状腺

 

 

 

 甲状腺機能亢進

1

39

2.6

骨格

 

 

 

 斜頸

7

40

18

 漏斗胸

15

44

34

 鳩胸

8

40

20

 翼状肩甲

12

35

34

 股関節形成不全

8

37

22

 扁平足

12

38

32

 ハイアーチ

3

39

7.7

 脊椎側弯症

27

39

69

神経

 

 

 

 てんかん発作

4

40

10

 上の図は対面アンケートでの筋肉以外の症状です。側弯症が最も一般的であり、69%に認められました。次によくみられたのは消化器系の症状で、嚥下障害が55%、逆流性食道炎が51%に見られました。特筆すべきは、骨折の発生率が高く、36%の症例で報告されています。心筋症(13%)、黄疸(13%)、および腎結石(13%)はまれでした。10%が発作を経験し、17%が学習障害を報告しており、一部の個人において中枢神経系の関与が示唆されました。すべての併存疾患は患者からの報告であり、医療記録からの確認は得られていません。最も一般的な手術は脊椎固定術/ロッド挿入(n = 19)および拘縮解放術(n = 10)でした。



呼吸機能について

 

 呼吸機能の低下の有病率が高いため、呼吸機能の定量的測定を検討しました。27人の参加者が肺機能検査(PFT)を行い、最大吸気圧、咳嗽ピークフロー、およびFVCの値は、ほとんどの参加者(それぞれ96% [n = 26]、81% [n = 22]、65% [n = 11])で予測値よりも低かった。

 今回の研究の参加者の60%が呼吸補助を必要としていました(32%が侵襲的サポート、28%が非侵襲的サポート)。30人の参加者はPFTを完了できませんでした。そのうち3人は年齢が若すぎ、10人は侵襲的な人工呼吸器サポートを受けており、7人は協力が得られませんでした。残りの10人の参加者についてはデータが利用できませんでした。



嚥下機能について


 ネマリンミオパチー患者においては球麻痺機能がしばしば障害され嚥下障害を呈します。これを評価するために、唾液分泌を2つのスケールで評価しました:Drooling Impact Scale(流涎の程度:左図)およびDrooling Rating Scale(流涎の頻度:右図)。全体の約3分の1が頻繁な唾液分泌を報告し、約3分の1が唾液分泌がないと報告しました。唾液分泌の重症度は参加者の約50%で中等度から重度でした。



時間経過を追った評価

 

 16人の個人が2009年と2016年に縦断的(時間経過を追った評価)に評価されました。  2009年の時点で、このコホートのサブセットの中央値年齢は4歳(平均6.6歳、範囲は1.5〜20歳)であり、2016年には中央値年齢が12.9歳(平均15.2歳、範囲は9〜28.7歳)でした。  一般的に、病気はかなり安定していました。経過中に3人が歩行能力を失い(2009年には8人が歩行可能でした)、3人が車椅子を使用し続け、6人が独立して歩行を維持していました。

 食事サポートに関しては、43%が引き続き経管栄養を必要とし(n = 6)、43%が両時点で独立して食事を摂り(n = 6)、2人が胃ろう管サポートを不要にしました。

 呼吸サポートについては、3人が呼吸サポートを必要とするようになり(非侵襲的n = 1、侵襲的n = 2)、以前にサポートを必要としていた参加者の状態が改善することはありませんでした。

 症状が悪化した人々において、歩行能力の喪失は5歳、10歳、および11歳で発生しました。侵襲的呼吸サポートの開始は3歳で(1人の患者については年齢不明)、非侵襲的サポートの開始は6歳でした。


 例外的な側弯症の悪化

 病気の安定性に対する唯一の例外は側弯症で、85%の人に新たに発症または悪化し、48%の人に急速な悪化が見られました。急速な悪化の平均年齢は9歳で、患者の38%が平均11歳までに手術を必要としました。


 定量的な運動機能の結果

 定量的な運動機能の結果として、関節角度とMFM20を測定しました。14人の参加者のうち6人はゴニオメトリーによる可動域が測定できない状態になり、13人のうち7人(54%)はMFM20で5点以上の低下を示しました。逆に、13人のうち1人(8%)だけがMFM20で5点以上の改善を示しました。これらのスケールは、病気の進行要素を示唆しています。


*MFM (Motor Function Measure):以下の3つのドメインにおけるテスト結果を反映しています:

  1. 立位および移動(ドメイン1)

  2. 軸および近位運動機能(ドメイン2)

  3. 遠位運動機能(ドメイン3)

これらのドメインを通じて、患者の運動機能の包括的な評価が行われます。


 呼吸機能の定量化

呼吸機能の定量化は、両時点でPFTを完了した参加者が4人しかいなかったため、分析されませんでした。


遺伝子型と表現型の相関

 



 


遺伝子型と表現型の相関を評価するために、ACTA1関連ネマリンミオパチー(n = 17)、NEB関連ネマリンミオパチー(n = 17)、または遺伝子型不明(n = 17)に分類しました。TPM2変異を持つ2例と不完全なデータの4例はこの分析から除外されました。主な比較ポイントは、食事、呼吸、歩行のサポートによって決定される障害の程度でした。ACTA1患者とNEB患者の間で必要なサポートの数に統計的な差はありませんでした。対照的に、遺伝子型不明のケースは2つまたは3つのサポートを必要とする可能性が高かった(53%)。しかし、食事サポートに関しては、ACTA1変異を持つ個人の方が胃ろう管を必要とする割合が高かった(67%対32%)。

 呼吸機能の違いは、サンプルサイズが小さすぎて評価できませんでした。

 NEBとACTA1の間で筋力を比較しました。MRCスコアは、遠位筋群を含め、両グループでほぼ同じでした。MFM20スコアは、ACTA1とNEBに差はありませんでしたが、遺伝子型不明グループの平均スコアは有意に低かった(p = 0.03)。



考察

57名のネマリンミオパチー(NM)患者に関する横断的研究と、一部参加者(n = 16)の縦断的データを報告しました。これらのデータは、将来の臨床試験に役立つアウトカム指標について重要な洞察を提供します。以下は主なポイントです:

  1. 疾患の安定性:

  • NMは重篤で、多くの領域で障害を引き起こします。半数以上の患者が何らかの介入サポートを必要としています。

  • 呼吸および食事が最も頻繁に影響を受け、球麻痺および軸の筋力低下を反映しています。これにより、多くの患者に側弯症が見られ、時間とともに悪化する傾向があります。

  • 側弯症を除けば、疾患の進行はほとんど見られませんでした。

  1. 運動機能と評価:

  • MFM20/32(運動機能測定)は、将来の臨床試験での主要アウトカム指標として有望です。ほとんどの患者でMFMスコアが低下しており、特に立位や移動のドメイン1での減少が顕著でした。

  1. 遺伝子型と表現型の相関:

  • NEBおよびACTA1遺伝子変異を持つ患者が多数を占め、これらのグループ間で障害の程度は類似していました。ただし、ACTA1変異を持つ患者はより嚥下障害の程度が重たい傾向がありました。

  • 遺伝的に未解決のケースの多くは、全体的に重症であるように見えました。

  1. 今後の課題:

  • より多くの患者を対象とし、より頻繁な評価を行うことで、アウトカム指標と疾患進行の理解を深める必要があります。

  • 特に重症患者の参加が困難であり、今回のデータが過少評価となっている可能性も否定できず、今後の課題と考えられます。


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